@article{oai:kwjc.repo.nii.ac.jp:00001534, author = {吉村, 圭}, issue = {58}, journal = {鹿児島女子短期大学紀要, BULLETIN OF KAGOSHIMA WOMEN’S COLLEGE}, month = {Feb}, note = {[訳者解題]  本稿では,A. A. ミルン(Alan Alexander Milne) が1934年に著した平和に関する論考『名誉ある平和』(Peace with Honour)の9章から11章の翻訳を行う.1  9章では戦争支持者たちが戦争を自らの死と結び付けて考えず, 思考停止状態で「戦争の習慣への追従」(subservience to the war convention)(89)をしていることに対して,10章では第一次大戦を経験せず悠々と生き延びたものたちが,経験したことのない戦争について勇ましく雄弁に語ることに対して,11章では当時戦争の口実として用いられた「人間の本質」(Human Nature)という言説が持つ矛盾に対して,それぞれに批判が行われている.  中でも9章では,ミルンが著した掌編「アルマゲドン」(“Armageddon”)と同じ言い回しや描写が随所で用いられており,その点が極めて意義深いものといえる.「アルマゲドン」とは,1914年8月5日号の「パンチ」誌に掲載された物語であり,日付を見てわかるようにその号は,イギリスがドイツへ宣戦布告し,事実上の大戦への参戦を表明した8月4日の翌日に発行されている.執筆期間を思えば,まさに大戦前夜に書かれた作品なのである.その中では第一次大戦が勃発するまでの経緯が極めて風刺的に描かれている.2  物語の冒頭では,ポーキンスというキャラクターが「英国に必要なものは戦争だ[…].俺たちはたるみきっているよ[…].俺たちを目覚めさせるためには,戦争が必要なんだ」(what England wants is a war […]. We ’re flabby[…]. We want a war to brace us up)(87)と述べ,戦争のない現状を嘆く場面がある.これとほぼ同じ言説が『名誉ある平和』9章に用いられている――「英国はたるんでいるよ.目覚めるためには戦争が必要だ」(England is getting slack. What she needs is a war to wake her up)(88).同箇所でこの発言は1914年の初夏にある愛国主義者が語るのを実際に聞いたものだと説明されている.つまりまさにミルンが「アルマゲドン」が書かれた頃に耳にしたものであり,その言葉は20年後に『名誉ある平和』が執筆されるまで,ミルンの心に残るほどの衝撃があったことが分かる.  また同じく9章では,戦争の暗雲がたちこめるときに,ある国の「旗」(flag)が冒涜され,その「威信」(prestige)が脅威にさらされ,「編集長と新聞社長が扇動的な記事を書き始める」(Here are our editors and newspaper proprietors preparing their leading articles)のだと説明されている(87).一方「アルマゲドン」の中では,エッセンランドという架空の国の「愛する国旗」(our beloved flag)への「侮辱行為」(insult)によって,その国の「威信」(prestige)が脅かされ,論説記者が愛国心を煽る扇動的な記事を書くというストーリーが描かれている(88).単語や筋書きレベルでの類似はもちろんそうであるが,国旗が侮辱されたからという理由で扇動的に愛国心があおられ,国の「威信」を守るためという口実で戦うことが美化された上で戦争が始まるというこの作品に描かれた戦争勃発への過程は,『名誉ある平和』で言われる「戦争への習慣」そのものであるといえる.つまり大戦が勃発したまさにそのときに執筆された「アルマゲドン」には,『名誉ある平和』の土台ともいうべきミルンの戦争への考えがすでに映し出されているのである.  ミルンは自伝の中で,「私は1914年より前も平和主義者だった」(I was pacifist before 1914)と述べているが(It’s Too Late Now 211),「アルマゲドン」と『名誉ある平和』の類似から,この言葉に偽りはなかったことがわかる.しかし伝記的事実が示すように,そのミルンでさえも「戦争を終わらせるための戦争」(war to end war)という言葉を真に受けて,自ら戦場に身を投じざるをえなかったのである(It’s Too Late Now 211).その事実から,第一次大戦という現在の我々には想像しえない歴史的事件に際しての,戦争への社会的ムードの高まりをうかがい知ることができる.  ここで扱うミルンの『名誉ある平和』は,文学研究上これまで十分に議論されてきたとはいいがたいが,第一次大戦という時代に生きた人の精神の歴史を示す貴重な資料となるものであるといえる.そのためここにその一部の翻訳を掲載する. [解題注記] 1 本稿での翻訳及び引用はすべて『名誉ある平和』の初版(Methuen, 1934)より行い,引用のページ番号もそれに準拠する.『名誉ある平和』の概要については拙訳『名誉ある平和〈1〉』内「訳者解題」参照. 2 「アルマゲドン」に描かれた大戦勃発への風刺については拙著「第一次大戦のカリカチュアとしての『アルマゲドン』」にて詳細に議論している.}, pages = {113--126}, title = {A. A. ミルン『名誉ある平和』〈3〉}, year = {2021} }